昭和の喫茶店 営業終了

2019年 10月07日

超人気のコーヒーショップ
 
会場のお客様からの連絡で神田司町二丁目にある「コーヒーショップ ジャーマン」の閉店を知りました。昭和49年(1974年)から営業している老舗の喫茶店です。ご夫婦だけで営業していました。
 ご主人がカウンター内にいてコーヒーを淹れ、奥様が配膳するというスタイルです。奥様は出前も担当し、近隣のオフィスにコーヒー、その他の飲料も届けていました。奥様が出前で不在の時は店内の配膳もご主人の役目。両人ともフル回転で動いていました。見事なチームプレーでした。
 ドトール、スタバ、タリーズ等の大手コーヒーチェーン店が隆盛の昨今、従来の喫茶店は次々と姿を消していきましたが、ここだけは活況でした。モーニングサービスタイムやランチタイムは近隣オフィスの人が集まりいつも満席。それ以外の時間帯でも人が途切れることはありませんでした。忙しさの合間を縫ってコーヒーの出前や食材の仕入れが行われていました。
 人気の秘密はリーズナブルな料金と飲料や食材の内容・品質にあります。香り高い本格的なコーヒーや美味しくてボリュームサンドイッチ等は絶品でした。ご両人とも寡黙で、話しかけないかぎりあまりしゃべらない人でしたが、店の真価だけで顧客の支持を得ていたように思います。

何年も値上げせず
 厚切りのトーストのついたモーニングサービスセットが350円、手作りのカレーライス、スパゲティ、サンドイッチ等のランチセットが600円から700円。オレンジジュースは店内で果実を搾ったもので、くし切りの果実も添えられていて400円。都内の同様な店と比べると破格の値段でした。
 消費税率が5%に上がったときも、8%に上がったときも値上げしませんでした。フォーラムミカサ エコに奥様が出前に来たとき、その理由を訪ねると「面倒くさい」といってにっこり笑ったのを憶えています。店の賃料や食材仕入れの代金は税額分上がるのに、その分を転嫁しない潔さには感銘を受けました。客の回転がいいのでやっていけるという自信があったかもしれません。
 フォーラムミカサ エコへの出前は主にジャーマンに注文していましたが、料金が変わらないため、料金表を入れたA4版のカードケースはすっかり赤茶けてしまいました。20年くらい経っているでしょうか。
       
重量感のある容器が・・・
 ここのコーヒーの容器(カップ&ソーサー)は特注で分厚い陶器でした。カップは普通のマグカップよりも厚手でした。普通の喫茶店の容器の2倍以上の重さがあるように思いました。欠けにくい、壊れにくいという利点もありますが、運ぶ時の重量たるやたいへんなものです。フォーラムミカサ エコではコーヒー30杯、40杯という注文もありますが、容器を入れたかごを、歯を食いしばって運ぶ小柄で細身の奥様の苦労には頭が下がりました。手伝いを申し出ても「いえ、大丈夫です」と言い、職人魂を際立たせていました。コーヒーをセットしお盆に載せて配膳し、容器の回収までするご苦労を考えると、ジャーマンの料金はなんと安いのだろうといつも思っていました。良心の塊のような精神で運営されているお店でした。
 しかし重いものを運び続けた長年の労働のせいか、奥様は次第に足を引きずるようになり、出前を止めていたようでした。ご夫婦は70代になっていたものと思います。
 そのような訳でジャーマンに注文が出せず、調べてみると昨年の12月が最後の注文になってしまいました。ときおり店の前を通りかかると、杖をつきながら配膳している奥様の姿が見えました。胸が詰まる思いでした。目を交わしながら互いに目礼するだけで終わりました。
 閉店の予感はありましたが、ねぎらいの言葉をかけてあげられなかったことに少し悔いが残っています。
 ジャーマンの写真を撮っていなかったので、ネットで調べてみると「食べログ」というサイトの「まめぞう」さんの口コミに店の外観が写っていました。お借りします。
 ご主人が通勤や仕入れに使っていたスクーターや奥様が出前に使っていた自転車がツーショットとなっています。記憶に残したいと思います。
 

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