天空から3 横浜三塔愛称の由来(新説)
横浜三塔物語

横浜市中区の関内地区には塔をもつ建物がいくつかあります。そのうち神奈川県庁にはキング、横浜税関にはクィーン、横浜市開港記念会館にはジャックという愛称がついています。横浜三塔と呼ばれています。
この三塔を同時に見ることができる場所が3カ所あり、これを巡ると願いが叶うという都市伝説があるそうです(横浜三塔物語)。横浜地元では「横浜三塔物語」というお菓子も販売されており、3月10日を「三塔」にかけて「横浜三塔の日」として様様なイベントも行われるようです。
横浜市をあげての観光客誘致の大作戦のようですので、この都市伝説に突っ込みは入れられません。
三塔愛称の由来
ただこの三塔の愛称の由来については少々物言い。神奈川県庁の公式ホームページでは以下のように書かれています。
「横浜三塔の愛称は、昭和初期に外国船員がトランプのカードに見立てて呼んだことが由来と言われています」 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/p630421.html」
「昭和初期」は、昭和元年から戦前くらいまでをいうと思いますが、「昭和初期」というのはずいぶんアバウトな表現です。三塔の竣工順に並べると、ジャック(横浜市開港記念会館 1917年=大正6年)、キング(神奈川県庁 1928年=昭和3年)、クィーン(横浜税関 1934年=昭和9年)。三塔がすべて竣工してから愛称がつけられたのでしょうか。それともそれ以前でしょうか。
「外国船員」が呼んだということですが、高い建物がない時代に外から船が横浜港に入ってくるとき塔がある建物に目が行くというのは分かります。言いだしっぺの船員に他の船員も同調してキングだ、ジャックだ、クィーンと言い始めて広がったのですかね。うーん。
「トランプのカードに見立てて」呼んだ? はぁ~? これが実は全く分かりません。なにゆえに見立てたのか。トランプのカードと何か共通性があるのか ???
以前から三塔愛称の由来についてはこのような疑問を持っていました。
5月の末頃に週刊新潮の巻末近くにある「続 蒼穹からの名建築」という写真付きコラムに、横浜市開港記念会館(ジャック)が出ていて、その写真を見てびっくり。おー、そういうことだったのか。
週刊新潮 6月4日号
分かりますでしょうか。当欄前回の日銀本店本館同様、特異な屋根の形です。このような屋根の形はおそらくこの建物以外にはないでしょう。90度回転させて少し線を入れてみます。
Jack(ジャック)の J です。グーグルアース等の航空写真を鳥瞰するかぎり、近くの高い所や航空機から見ればこのように見えるはずです。ジャックの塔(横浜市開港記念会館)が出来たのは前述のとおり、1917年(大正6年)。この建物を覆い隠すような高い建物は長い間できなかったのではないでしょうか。
これを見た人の脳裏に J の形をした屋根の建物の印象が残り、トランプのジャックと重ね合わせて次第にジャックの塔と言われるようになったとのではないでしょうか。地元の年輩の方にお聞きしたいですね。
ここから発展して横浜の代表的な三塔の名前が、ジャック、キング、クィーンとなったのではというのが筆者の直感、推理です。間違っているかもしれませんので、話半分で読んでくださいね。
過去の出来事の背景にある因果関係を掴むことは容易ではなく、伝聞を積み重ねてできた伝説といわれるものは特にそうだと思いますが、どこかにきっかけがあると思っています。
なお、念のため、King(神奈川県庁)、Queen(横浜税関)の上空からの写真も見てみました。見ようによってはKやQに見えないこともありません。(笑)
Bing 航空写真
Jackの塔に辰野金吾博士の影
横浜市開港記念会館(ジャックの塔)は、横浜開港50周年を記念して、市民の寄付を募り、消失したかつての町会所(まちがいしょ)の跡に公会堂として建てられた記念建造物。国の重要文化財で威風堂々とした存在感があります。
上の週刊新潮の写真はモノクロですが、外壁は赤レンガに白い花崗岩の帯を付けたような意匠となっています。東京駅等、明治・大正の由緒ある建物によく見られる様式で、考案者の辰野金吾氏の名前をとって「辰野式フリークラッシク」と言われています。
設計については、公開建築競技(コンペ)が行われたようで、当選したのは東京市の技師である福田重義という人。この福田氏の発案に基づき、横浜市の技師達が具体的な実施設計をして建てられたのが横浜市開港記念会館(ジャックの塔)ということになっています。
福田重義氏についてあまり情報はありませんが、東京帝国大学建築学科卒業で、明治建築界の大家・辰野金吾氏の弟子だそうです。横浜市開港記念会館の設計に、屋根の造形まで周到に気を配る辰野氏のアドバイスはなかったでしょうか。横浜三塔愛称の由来は、辰野金吾氏に行きつくかも知れません。
横浜開港記念会館が辰野門下の人たちによって造られたことを表す館内掲示
<追記> 8月24日
8月14日に横浜にいく機会がありましたので、ランドマークタワー69階の展望台から三塔付近を見ましたが、ビルが重なり屋根の造形が見えず、イメージした写真は撮れませんでした。
ただ横浜開港記念会館と横浜税関の館内に展示されていたそれぞれの塔の模型が見られたのは収穫でした。
横浜開港記念会館(Jackの塔) 屋根はまさしく J の形

横浜税関(Queenの塔)

横浜税関は増築が進み、当初の形からずいぶん変化しています。竣工時の建物を上から見ると、おおー。まさしくQueenのQではないでしょうか。90度回転させて少し大きくしてみます。
やはりJackの塔とQueenの塔の愛称の由来は、上から見た屋根の造形と関係があるのではないでしょうか。三塔の内、一番遅くできたQueenの塔の竣工は1934年(昭和9年)。それ以降に近隣の比較的高い建物(神奈川県庁の塔等)から見た両塔の屋根の造形が、愛称の由来のベースになっているというのが筆者の結論的な推理です。信じるか信じないかはあなた次第です。

お盆休みの期間、横浜の街は「ピカチュウ」一色でした。
